一昨日は同志社大学で、日本記号学会分科会「タイムマシン/タイムトラベル」・視聴覚文化研究会共催の「タイムマシン!-デジタルメディアにおける時間の経験」という研究会に出席した。岩城覚久君の報告の後、今回のゲストであるメディア作家の赤松正行さんによる講演があり、その後赤松さんと一時間ばかり対談した。
赤松正行さんとは、私の前任校であり今も非常勤講師として教えている情報科学芸術大学院大学(IAMAS)において6年半の間同僚として働いていた。勤務先ではもちろん海外での展覧会などでも一緒に仕事をする機会は少なくなかったが、考えてみると今回のように対談したのははじめてだったかもしれない。
研究会のテーマに即して、今回は彼の制作してきた数多くの作品の中でもとりわけ、その名も"Time Machine !"(2002-2005)と題されたものに焦点が当てられた。これはビデオカメラとコンピュータ、プロジェクターが組み合わされたインスタレーションで、観客は直前の過去の自分の姿を経験し、操作できるようなシステムである。現在はiPhoneアプリとしてのバージョンもあり、赤松さんはそれをインストールしたiPhoneを10台持ってきてくれて、会場で体験する時間もあった。
シンプルな発想なのだが、きわめてよく出来ているのである。コンピュータを用いたインタラクティヴ・インスタレーションの場合、観客に何か動作を起こさせるために「…してみてください」などと指示が書いてあったり、解説者が隣に立って動作を促したりする場合も多いが、不細工なことだなといつも思っていた。
赤松さんの"Time Machine!"の場合は、何も指示を与えなくても、観客は自分から顔の表情を変えたり手を振ったりして、現在の瞬間を確認したり直前の過去と戯れたりするのである。実際、iPhoneアプリ版でも同じことが起こった。赤松さんによると人間だけではなく、ペットの猫や犬もこの作品には反応するそうだ。人間を越えた、動物の世界知覚の仕組みの深い部分に訴えるところがあるのかもしれない。
赤松さんとの対談では、彼が講演の中でも触れた眼球型のセンサーから視神経に直接入力する装置や、光の場の情報自体を記録するライトウェーブ・カメラのことも話した。時間がなくて、iPhoneのような携帯端末の普及が今後引き起こすであろう変化や、「セカイカメラ」のようなネットワーク上に蓄積される映像から生成される集合的知覚の可能性など、話題にしたいことはまだ多く残ってしまったが、それらはまた次の機会に話し合いたい。
また現実の「タイムマシン」とは別に、想像上のタイムマシンやタイムトラベルをめぐる問題についてもまだ論じるべきことは多い。一昨日は余裕があれば「タイムパラドックス再考」という話をしようと考えていたのだが、時間がなかったのでこのブログでの次の記事で少し紹介しておきたい。