◉ れいわTANUKI問答ポンポコ 004 ◉
【Q】先生こんばんは。ポンポコ問答をありがたく拝読しています。003の、食べないことや、若さについての回答を読みました。人類が愚かなことは、人類はしくれの私でも思い知っていますが、他の動物たちに、人類もなかなかやるなあと思わせるようなことって、何かないでしょうか。このまま滅びていくのは空しいです。
【A】質問ありがとう。他の生き物たちから見て、人類のいいところは、「幼い」というところだと思います。言い換えれば、人類とは成長しない、大人にならないということですね。だからほとんどの生き物からみると、人類はまるで赤ちゃんのように見えているのではないかと思います。
生物界には「幼態成熟(ネオテニー)」と言って、大人の段階、つまり子供を作ることができる年齢に達しても、身体には子供の特徴が残るという現象があります。大人になるということは、特定の環境に適応した特徴が発達することを意味します。環境が変わらなければそれは強さなのですが、環境が変化するとそれが弱みになります。それに対して子供の身体は弱いが未分化なので、環境の変化に対する可塑性を持っています。
今からちょうど百年前、オランダのルイス・ボルク(Lodewijk 'Louis' Bolk, 1866-1930)という生物学者が、人類もチンパンジーのような霊長類のネオテニーであるという説を唱えました。たいへん面白い仮説で分野を越えた影響力もありますが、その解釈については現在も論争が続いています。
ネオテニーは主として身体的特徴に基づく考え方ですが、人類が幼いというのは、そうした生物学的な考察だけにとどまりません。人間が自分を自然界の中で特別な存在だと信じている特徴、つまり言語、文明、文化といった、まさに人類のセルフ・アイデンティティーといえるような事柄においてこそ、人類の幼さは最も明確に現れているのです。
まず、人類はこの宇宙の中で自分を特別な存在だと思っています。これは幼児の世界観です。人類は自分が特別である証拠として、象徴的思考、複雑な社会形成、科学技術等々をあげますが、それらを人類の特殊性を証明する「証拠」として解釈しているのは、人類だけなのです。ようするに、自分で「オレは特別だ」と言っているだけなのですね。人類以外の存在は誰もそのことを承認していません。そもそも興味もありません。「自然と文明」という区別が意味をなすのは人類にとってだけであり、他の生物にとってはそんな区別は意味をなしません。
一部の人類は、科学技術に基づく近代文明によって自分たちが自然を破壊してきたと反省しています。熱帯雨林の伐採とか、二酸化炭素ガスによる地球温暖化、現在の新型コロナウィルスの世界的感染さえも、無軌道な開発の「罰」だと考えている人もいます。「人新世」というようなことを言っている人もいますね。それは他の生き物から見ても、人類もなかなか分かってきたな、という徴候のように〈人類は〉思っているかもしれませんが、それは全然違います。
地球は人類の活動によって別に深刻な影響を受けるというようなことはありません。そもそも空間的にも時間的にも、人類の文明活動などというものは宇宙の中ではほとんど意味を持ちません。「自然」とか「地球」とかいう概念はみんな、人類文明に内属しているものです。人類は世界についてどんなに憂慮しようとも、結局は自分のことしか考えてないのです。ですが、それは別に悪いことでも罪深いことでも何でもなくて、当たり前のことなのです。全ての生き物はそうなのですから。
もうひとつ、人類が他の生物種と比べて救いがたく幼いことを示す、明白な証拠の一つは、人類があたかも「自分たちは永久に存続する(あるいはすべきだ)」というような固定観念を持っていることです。幼児も、何となくそう思ってますよね。だから思春期に「自分も死ぬんだ」と客観的に知ってショックを受け、中二病になります。
人類も、まだほとんど中二病なんです。ホモ・サピエンスはほんの数十万年というオーダーで出現した極めて新しい種族ですから、当然その範囲内で滅亡すると考えるのが妥当です。私たちが「文明」と思っているものの歴史はさらに短く、数千年レベルの現象です。科学技術文明は数百年以内に、より広い意味での文明も数万年以内には、おそらく消滅します。「文明」とは生物進化の数限りないエピソードの一つであり、何ら特別なものではありません。
だから他の動物たちは、人類もなかなかやるなあ、面白いとは思っているでしょうが、別にそれがうらやましいとか、自分もそうなりたいとかは、全然思っていないでしょう。人類だって他の生き物とおんなじだということは、みんな知っています。でも人類はまだ幼く、自分が永遠に生きると思っているので、人類がもう少しだけ賢くなり、自分たちもこの地球上で早晩消滅するのだと知った時に、初めて人類は他の生き物と、もっと腹を割って話せるようになるのではないかと思います。