上のタイトルは、忌野清志郎さんの口調で読んでほしい。
先日、東京藝術大学で「文化庁長官と語る会—文化・芸術は社会の役立つか—」というのがあったらしい。これに参加したアーティストの村山悟郎さんが教えてくれたので知った。この催しは「白熱教室」と銘打たれていたそうで、ぼくは他の「白熱教室」のこととか、正気の沙汰とは思えない今の大学改革のことも思い出してしまい、メディアの前に座っている私たちはどうして抽象的な「熱さ」を欲望してしまのだろうかと考えて、数日前「教室は白熱などしなくてよろしい」という記事を書いた。
その後、この東京藝大の「白熱教室」で文化庁長官の近藤誠一さんが見せたというパワーポイントのスライドがツイッターなどでやり玉に上がっているらしい。それを見ると、「一般の人が芸術から得られる」ものとして、愛や正義、忠孝や恩義といった項目があげられているのが見える。これに対して多くの人が、信じられない、時代錯誤だ、吐きそう、戦前の軍国主義教育に戻っている、などと悪口を言い合っている。
たしかに、このスライドだけを見ると、それは非常に偏った芸術観だと言わざるをえない。そしてまさに今、森美術館の会田誠展が問題になっている(これについても先日「会田誠のことなど」に書いた)この時期に、文化庁長官がこんなふうに芸術を見ているのだと示されると、いよいよ国家による「退廃」芸術の弾圧が始まるのではないか!?などと早とちりして煽るような人が出てきても、まあ不思議ではない。
でも、ちょっとクールダウンしてほしい。ぼくがふたつ前の記事でネットの抽象的な「熱さ」を批判したのは、まさにそういうことについてだっただからである。どんな前後の文脈で見せたのかも分からないスライドの写真を一枚だけ取りあげて、それを文化庁長官という「権力」(しかもネットで悪口を言うにはまったく安全な権力)と結びつけ、誹謗中傷の連鎖反応を増殖させていくのは、これはこれで不毛な、そしてとても恐ろしい、「イジメ」と同質の行為なのである。
文部科学省や文化庁と多少とも関わりのある「御用学者」(これも不用意に言うと本気にする人が出てくるのだが)の立場から言いますと、たとえば文化庁長官個人が心に抱いているコンサーバティヴな芸術観が、国の文化行政にそのまま反映されるなどということは、ない。ぼくは「文化庁世界メディア芸術コンベンション」の座長という役割をこの3年間引き受けているが、その内容について文化庁から指示を受けたことなどは一度もないのである。
昨年の「想像力の共有地—現代社会はマンガとアニメーションによって何を共有しうるのか—」のオープニングにおいては、大山慶さんのアニメーション作品『Hand Soap』の上映を、近藤長官はぼくの隣の席でご覧になった。イジメや思春期の性的空想を扱った相当キモチの悪い(しかしとても優れた)作品であり、とうてい彼の好みではなかったと思う。過去2回のコンベンションの議論も、国の文化政策や文化庁の「メディア芸術」施策に対する根本的批判を含んでいる。そんな会議を組織してきたのに別に文句を言われたことはないし、座長も解任されなかった。まあ黙認されてるのだと思うが、黙認は見識である。
さてそのコンベンションの第3回「異種混交的文化における批評の可能性」が、いよいよ2月16、17日に迫ってきた。今回は「批評」をテーマにしているが、これは作品についての解説や個別のジャンル内部で批評家によって行われる言語活動のことではなくて、私たちが文化や芸術について語る言葉のあり方そのものを問題にしている。言葉をもっと大切にすること、文化的発話の中にもっと人々を元気づけ、もっと横断的に人々を結びつける力を回復しようというのがテーマなのである。
こうした広い意味での批評に関しては、このブログでもいままで何度か言及してきた。たとえば、去年の3月に書いた「批評の原理≪2≫」では、今日ではアートでも何でも結局は「営業活動」とみなされ、それについて何かを語ることは「販売促進」か、さもなければ「営業妨害」とみなされていることを指摘した。これが批評の不在ということである。言い換えれば、「宣伝」か「悪口」しかない世界である。たんなる「宣伝」も「悪口」も、共に人々をバラバラにする。こんな世界は住みづらい。そしてあらゆる活動が自己利益の計算になってしまったら、結局は自己利益そのものも破壊される。
ぼくにとって批評というテーマは、最終的には、連帯への希望ということなのである。「連帯」といっても、みんなでプラカードを持ってデモをしたりシュプレヒコールを唱えたりすることだけではない。それではどんな連帯が可能なのか? とりわけ、芸術や文化を通じてどんな連帯が可能なのだろうか? こうしたことを率直に議論するための場として、「第3回文化庁世界メディア芸術コンベンション」を計画した。参加は無料だが、このページから参加申込みをしていただければ幸いである。
ツイッター(hirunenotanuki)やメール(
)で、ぼくに直接連絡していただいてもかまいません。カタ苦しい会議ではありません。ぼくがこういう性格なので、たぶん「白熱」もしません(笑)。たくさんの方のご参加をお待ちしています!